現代のアプリケーションにおいて、APIはユーザー体験とシステムの中核を担う不可欠な技術です。長年にわたり標準的な存在であったRESTは、単純で直感的な設計により広く採用されてきました。しかし、データ構造の複雑化やマルチデバイス対応の要求が高まる中、RESTの限界が顕在化しています。こうした課題に対応する形で登場したのが、Facebookが開発したGraphQLです。
GraphQLは、クライアントが必要なデータのみを柔軟に取得できる画期的な仕組みを提供します。では、GraphQLとRESTはどのように違い、どのようなケースで使い分けるべきなのでしょうか?本記事では、両者の技術的特徴、実際のユースケース、導入時の判断基準を体系的に解説します。

📌 目次
- 1. はじめに:API設計の分岐点に立って
- 2. REST APIとは?
- 3. GraphQLとは?
- 4. RESTとGraphQLの主要な違い
- 5. 利点と欠点の整理:選択の判断軸
- 6. 導入前に考慮すべきポイント
- 7. 実際の導入事例から学ぶ
- 8. 結論:正解はない、あるのは戦略だけ
- 9. 参考資料・おすすめリソース
1. はじめに:API設計の分岐点に立って
アプリケーション開発において、API(Application Programming Interface)は、データと機能を結ぶ「橋渡し」の役割を果たします。ユーザーインターフェースが高度化し、スマートフォンやIoT機器など様々なクライアントが登場する中で、APIにはより柔軟で効率的な構造が求められています。
その中で、長年デファクトスタンダードとされてきたREST(Representational State Transfer)は、シンプルで理解しやすく、多くのシステムで採用されてきました。しかし、複雑なデータ構造やインターフェースのカスタマイズ要件が増えるにつれ、RESTでは対応しきれないケースが目立つようになってきました。
このような背景のもと登場したのが、GraphQLです。GraphQLは、クライアントが必要なデータだけを選択的に取得できる「宣言的」なクエリ言語であり、RESTとは全く異なるアーキテクチャ思想を持っています。
本記事では、RESTとGraphQLそれぞれの設計思想、技術的な違い、活用の向き・不向き、導入事例などを総合的に比較し、「どちらが良いか」ではなく「いつ、どのように選ぶべきか」という観点で解説していきます。
2. REST APIとは?
REST(Representational State Transfer)は、2000年にロイ・フィールディング氏が博士論文で提唱した、Webベースのアプリケーション設計スタイルです。RESTは特定のプロトコルではなく、HTTPプロトコルを前提としたアーキテクチャ原則に基づいて構築されており、Webサービスの設計や実装に広く活用されています。
RESTの最大の特徴は、「リソース(資源)」を中心に考える構造にあります。各リソースは一意のURI(例:/users
や/products
)によって表現され、HTTPメソッド(GET、POST、PUT、DELETEなど)によってそのリソースに対する操作を定義します。
RESTの基本原則
- ステートレス(Stateless): 各リクエストは独立しており、サーバーはクライアントのセッション状態を保持しない。
- クライアント-サーバー構造: UIとデータ処理を明確に分離し、それぞれを独立して開発・スケールできる。
- キャッシュ可能: レスポンスはキャッシュ可能であるべきで、ネットワーク効率の向上が可能。
- 統一インターフェース: API全体で一貫性のある操作体系を提供。
- 階層型システム: ロードバランサーやプロキシを介した中間層の設計が可能。
REST APIの具体例
例えば、ユーザー情報を扱うREST APIは次のようなURIとHTTPメソッドで設計されます:
GET /users → ユーザー一覧を取得
GET /users/123 → 特定ユーザーの情報を取得
POST /users → 新規ユーザーを作成
PUT /users/123 → ユーザー情報を更新
DELETE /users/123 → ユーザーを削除
RESTのメリット
- 設計がシンプル: HTTPとURIに基づいた直感的な構造で、理解しやすく導入しやすい。
- 豊富なツールサポート: Postman、Swaggerなど多くのAPIテスト・ドキュメント生成ツールに対応。
- HTTPキャッシュとの親和性: 標準的なキャッシュ機構をそのまま利用可能。
- 業界で広く採用: 安定性・信頼性の面で成熟した選択肢。
RESTのデメリット
- 過剰・不足なデータ取得(Over/Under-fetching): 必要な情報だけを取得できないことがある。
- 複数リクエストが必要: 関連リソースを取得するために複数のエンドポイントを呼び出す必要がある。
- バージョン管理が煩雑: APIの変更時に
/v1
、/v2
など明示的なバージョン管理が求められ、保守コストが増加。
RESTは今でも数多くのサービスで採用されている堅牢な設計手法ですが、データの柔軟性やクライアントごとの多様な要求を満たすには限界が存在します。そのギャップを埋めるために生まれたのが、次章で解説するGraphQLです。
3. GraphQLとは?
GraphQLは、2012年にFacebookによって開発され、2015年にオープンソースとして公開されたAPI向けのクエリ言語および実行環境です。RESTの課題を解決する目的で生まれたGraphQLは、クライアントが必要なデータを必要な形で柔軟に取得できる仕組みを提供します。
従来のREST APIでは、複数のエンドポイントを通じてリソースを取得しなければならず、過剰あるいは不足したデータを受け取ることが一般的でした。GraphQLでは、単一のエンドポイントに対してクエリを送信することで、必要なデータのみを一度に取得できます。
GraphQLの主要な構成要素
- スキーマ(Schema): 取得可能なデータ構造とその型を定義。APIの「契約」として機能します。
- クエリ(Query): データを取得するための命令文。必要なフィールドを明示的に指定します。
- ミューテーション(Mutation): データの作成・更新・削除などを行うための命令。
- サブスクリプション(Subscription): リアルタイムデータ更新をクライアントに通知する仕組み。
GraphQLクエリの例
例えば、ユーザーの名前とメールアドレスだけを取得したい場合、以下のようなクエリを使います:
{
user(id: "123") {
name
email
}
}
上記のクエリに対するサーバーからのレスポンスは次のようになります:
{
"data": {
"user": {
"name": "山田太郎",
"email": "taro@example.com"
}
}
}
GraphQLの強み
- 過不足のないデータ取得: クライアントが必要なフィールドだけを指定できるため、ネットワーク効率が向上。
- 単一エンドポイント: 全ての操作が
/graphql
の1つのURLで完結。 - バージョンレス設計: スキーマの進化によって機能を追加しても、既存クエリに影響を与えにくい。
- 自己記述的なドキュメント: スキーマに基づき、ツール(GraphiQLなど)でドキュメントを自動生成可能。
GraphQLが向いているケース
以下のような要件がある場合、GraphQLの採用が効果的です:
- モバイル・Web・IoTなど複数のクライアントを対象にしたアプリケーション
- ネストされた複雑なデータ構造(例:ユーザー → 注文 → 商品)
- 通信量の最適化や高速なUI描画が求められる場合
GraphQLの課題
柔軟性の裏側にはいくつかの設計上の注意点も存在します:
- キャッシュの困難さ: POSTリクエスト主体であるため、RESTのようなHTTPレベルのキャッシュは効きにくい。
- クエリの複雑性管理: ネストが深いクエリや高コストなクエリによるパフォーマンス悪化のリスク。
- アクセス制御の複雑さ: フィールド単位での認可が必要な場合、実装が煩雑になる。
このように、GraphQLはRESTと異なりクライアント主導のアーキテクチャを提供しますが、それに伴い設計と運用には高度な注意が必要です。次のセクションでは、RESTとGraphQLの具体的な違いを、構造・性能・拡張性などの観点から比較していきます。
4. RESTとGraphQLの主要な違い
RESTとGraphQLは、どちらもAPI設計の手法として広く使われていますが、そのアーキテクチャ思想と実装アプローチは大きく異なります。ここでは、実務での選定に役立つように、いくつかの重要な観点に基づいて両者を比較します。
📌 データ取得の方法
RESTは複数のエンドポイントを持ち、それぞれのリソースに対して別々のリクエストが必要です。一方、GraphQLは単一エンドポイントで複数のリソースを一括して取得できます。
GET /users/123
GET /users/123/posts
GET /users/123/comments
上記のようなRESTリクエストを、GraphQLでは1つのクエリで次のように実現可能です:
{
user(id: "123") {
name
posts {
title
}
comments {
content
}
}
}
📌 Over-fetching / Under-fetching
RESTでは、固定されたレスポンス構造により、必要以上のデータ(Over-fetching)や、必要なデータが得られない(Under-fetching)という問題が生じやすくなります。GraphQLは、クライアントが必要なフィールドだけを明示的に指定するため、こうした無駄を大幅に削減できます。
📌 バージョン管理
RESTでは、APIの仕様変更に伴い、/v1
や/v2
のようにエンドポイントをバージョン分けするのが一般的です。これは管理が煩雑になりやすく、移行コストも高くなります。
GraphQLでは、スキーマ進化の原則に従い、フィールドの追加や非推奨化を通じて互換性を保ちながら機能拡張が可能です。バージョンレスな開発が可能となります。
📌 キャッシュ戦略
RESTはHTTPの仕組みにより、ブラウザやCDNなどによる標準的なキャッシュ制御が可能です。これによりトラフィックの軽減や高速化が実現できます。
一方、GraphQLは通常POSTリクエストで動作し、動的なクエリ構造を持つため、HTTPレベルでのキャッシュは困難です。Apollo Clientなどのライブラリを活用したカスタムキャッシュ戦略が必要となります。
📌 クライアント主導 vs サーバー主導
RESTでは、サーバーがレスポンスの構造を決定します。GraphQLでは、クライアントが必要なデータ構造を定義できるため、UIの柔軟性や開発速度が向上します。
📌 ツールとエコシステム
RESTは長年の実績があり、Swagger(OpenAPI)、Postman、cURLなど、豊富なツール群に支えられています。GraphQLもGraphiQL、Apollo、Relayなどモダンな開発ツールやIDEとの連携が充実しており、急速にエコシステムが拡大しています。
📊 比較表
比較項目 | REST | GraphQL |
---|---|---|
データ取得 | 複数のエンドポイント | 単一エンドポイントで柔軟なクエリ |
Over/Under-fetching | 発生しやすい | 必要なデータのみ取得 |
バージョン管理 | URLでバージョン分け | スキーマでの互換性管理 |
キャッシュ | HTTPキャッシュ対応 | 専用キャッシュが必要 |
クライアント制御 | サーバーがレスポンス定義 | クライアントがレスポンス構造を定義 |
このように、RESTとGraphQLはそれぞれ異なる特性を持ち、プロジェクトの目的や構成に応じて適切に選択する必要があります。次章では、両者の利点と欠点を整理し、導入判断の材料となる実践的な比較を行います。
5. 利点と欠点の整理:選択の判断軸
RESTとGraphQLの違いが明確になったところで、それぞれの長所と短所を改めて整理してみましょう。API設計においては技術的な優劣ではなく、状況に応じた適切な選択が成功の鍵を握ります。
✅ RESTの利点
- 理解しやすく導入が容易: HTTPの標準仕様に準拠しているため、学習コストが低い。
- 強力なキャッシュ機構: HTTPヘッダーやCDNと組み合わせたキャッシュ最適化が可能。
- 成熟したエコシステム: Swagger、Postman、OpenAPIなど多様なツールに対応。
- マイクロサービス構成と親和性が高い: リソース単位での明確な分離が可能。
❌ RESTの欠点
- 過剰または不足なデータ取得: エンドポイントが固定されているため、柔軟なデータ取得が難しい。
- 複数回のリクエストが必要: 関連リソースの取得には複数のAPI呼び出しが必要。
- バージョン管理の手間: 仕様変更のたびにAPIバージョンを分ける必要があり、保守負荷が増大。
✅ GraphQLの利点
- 必要なデータだけを取得: クライアントが欲しいデータ構造を指定できる。
- 単一エンドポイントで完結: 複数リソースを一括取得でき、API設計がシンプルに。
- バージョン管理が不要: スキーマの進化により柔軟な機能追加が可能。
- 開発生産性の向上: クライアント主導の設計でUI開発がスムーズに進行。
❌ GraphQLの欠点
- キャッシュの難しさ: HTTPキャッシュが機能しづらく、専用のキャッシュ戦略が必要。
- クエリの複雑性: 高度なクエリがサーバー負荷を増大させるリスクがある。
- 学習コストと導入準備: スキーマ設計やリゾルバの理解が必須で、導入には準備が必要。
📊 判断マトリクス
選定基準 | RESTに向いている場合 | GraphQLに向いている場合 |
---|---|---|
データ構造の複雑さ | 単純なCRUD操作が中心 | ネストされた関係データが多い |
クライアントの多様性 | 単一または限定されたプラットフォーム | Web・モバイル・IoTなど多様なデバイス対応 |
キャッシュ戦略 | HTTPキャッシュを活用したい | Apollo等を使った柔軟なキャッシュ設計 |
チームのスキルセット | REST経験が豊富でGraphQLは未経験 | GraphQLや型ベース開発に習熟している |
変更への対応 | バージョン管理で明示的に制御したい | 非破壊的にスキーマ進化を管理したい |
このように、両者には一長一短があり、導入目的やプロジェクトのスケール、運用体制に応じて選択を行うことが重要です。次章では、実際にRESTからGraphQLに移行した事例や、両者を併用するハイブリッド構成など、現場での活用事例を紹介します。
6. 導入前に考慮すべきポイント
RESTとGraphQLの違いが理解できても、実際にどちらを導入するかを判断するには、技術以外の要素も含めた総合的な視点が求められます。この章では、APIアーキテクチャを選択する上で押さえておくべき実務的な検討事項を紹介します。
1️⃣ プロジェクトの複雑性とデータ構造
RESTは単純なデータ構造や基本的なCRUD操作に非常に適していますが、次のような条件ではGraphQLの方が適している可能性があります:
- ネストされたデータ構造(例:ユーザー → 注文 → 商品)
- 複数のエンティティを横断してデータを取得する必要がある
- クライアントごとに異なるデータ表示要件がある
2️⃣ クライアント側の多様性
RESTはデータ構造が固定されており、すべてのクライアントに同じレスポンスを提供します。一方、GraphQLはクライアントが自分で必要なデータを定義できるため、次のようなケースで有利です:
- モバイルアプリ・Webアプリ・スマートデバイスなど複数のUIから利用されるAPI
- UIの更新頻度が高く、柔軟なデータ制御が求められる場合
3️⃣ チームの技術スタックとスキル
GraphQLの導入には、以下のような新しい設計思想や技術が必要になります:
- スキーマ駆動設計と型システムへの理解
- リゾルバ(Resolver)の構築とデータ取得戦略
- パフォーマンス監視やクエリ制限の実装
RESTはより広く普及しており、開発者の習熟度が高いため、学習コストや技術的リスクの少なさという点で有利です。
4️⃣ ネットワーク環境とデータ転送効率
モバイル端末や低帯域環境では、レスポンスサイズを最小限に抑えることが重要です。GraphQLはクライアントが取得するフィールドを限定できるため、効率的な通信が可能になります。
一方、RESTはHTTPキャッシュとの相性が良く、静的データの配信効率という点では依然として優位性を持ちます。
5️⃣ セキュリティと認可管理
GraphQLでは、クライアントが自由にクエリを記述できるため、サーバー側において以下のようなセキュリティ強化が不可欠です:
- クエリ深度の制限: 無限にネストされたクエリによる負荷を防止
- クエリの複雑度スコアリング: 重すぎるクエリをブロック
- フィールド単位のアクセス制御: ユーザー権限に応じた厳密な認可処理
RESTでは、エンドポイント単位の認可が比較的シンプルに構成できますが、細かい制御には追加実装が必要です。
6️⃣ モニタリングと運用体制
GraphQLはフィールド単位でのクエリ処理となるため、従来のREST APIのようなURLベースのログやモニタリングだけでは不十分です。次のようなツールや対策が必要になります:
- Apollo Studio、GraphQL Tracingなどのモニタリングツール
- フィールド単位のログ収集とパフォーマンス計測
- Persisted Queries(クエリの事前登録)による攻撃防止とパフォーマンス改善
7️⃣ 既存APIからの移行戦略
既にRESTベースで構築されているシステムでは、段階的な移行またはハイブリッドアーキテクチャの導入が現実的です:
- GraphQLゲートウェイをREST APIの上に構築する
- BFF(Backend for Frontend)としてフロントエンドごとにGraphQLを導入
- 一部機能のみGraphQLで実装し、徐々にスキーマを拡張
このように、APIアーキテクチャの選定には、開発体制・インフラ・UI設計・将来の拡張性など、あらゆる要素を多面的に見極めることが重要です。次章では、こうした考慮を実際にどのように導入に活かしているのか、実例を交えて紹介します。
7. 実際の導入事例から学ぶ
APIアーキテクチャの選択は理論だけでは決められません。実際に世界中の企業がどのようにRESTとGraphQLを導入し、活用し、あるいは併用しているのかを知ることは、非常に大きな参考になります。
📌 Facebook ― GraphQL誕生の背景
GraphQLはFacebookが社内のモバイルアプリの課題を解決するために開発しました。当時、REST APIでは以下のような問題が顕在化していました:
- 複数のAPI呼び出しが必要で通信回数が増加
- 取得データが多すぎる(Over-fetching)
- 必要なデータが一度で取得できない(Under-fetching)
GraphQLの導入により、クライアントが必要とするデータを必要なだけ取得できるようになり、アプリのパフォーマンスとユーザー体験が大幅に向上。こうしてGraphQLは2015年にオープンソースとして公開され、業界全体に広がりました。
📌 GitHub ― RESTからGraphQLへの段階的移行
GitHubは2016年にGraphQL APIを公開し、従来のREST APIと並行して提供しています。GraphQL採用の背景には次のような課題がありました:
- 複雑なデータ構造(例:リポジトリ → プルリクエスト → レビュー)
- モバイル環境での通信最適化の必要性
- クライアントごとの異なるデータ要件
GraphQLにより、開発者は1つのリクエストで多層的なデータを効率的に取得できるようになり、新しい機能は主にGraphQLで提供されるようになりました。
📌 Shopify ― ハイブリッド構成での活用
Shopifyは当初REST APIを主軸としていましたが、以下のような理由でGraphQLを部分的に導入しました:
- 注文・顧客・在庫などの関連データを効率よく扱いたい
- API呼び出しの数と通信量を削減したい
- 開発者に柔軟なデータ取得手段を提供したい
ShopifyはGraphQL APIをRESTと併用する「ハイブリッド構成」を採用し、GraphQLではクエリコスト制限を設けてサーバー負荷を制御しています。APIの利用状況に応じたリソース制御も行っており、現実的なスケーラビリティに対応しています。
📌 Netflix ― フロントエンドごとの柔軟なゲートウェイ設計
Netflixは膨大なマイクロサービスと多様なクライアントを持つ企業です。同社は、GraphQLをクライアント専用のAPIゲートウェイとして部分的に採用し、UIの柔軟性と開発速度を高める戦略を取りました。
すべてのサービスにGraphQLを導入するのではなく、BFF(Backend for Frontend)パターンでGraphQLを活用し、RESTとの共存を図っています。
📌 ハイブリッド戦略の現実的な運用
実際、多くの企業はRESTからGraphQLへの完全移行ではなく、次のような段階的・選択的な導入を選んでいます:
- 既存のREST APIをラップする形でGraphQLゲートウェイを構築
- 新規機能や高UI要件の画面のみGraphQLで提供
- Apollo Federationなどを使ってマイクロサービス間を統合
このようなハイブリッドアプローチにより、既存システムの安定性を損なうことなく、GraphQLの利点を段階的に取り込むことが可能になります。次章では、こうした事例を踏まえたうえで、どのような戦略が適切かをまとめ、最終的な結論へとつなげます。
8. 結論:正解はない、あるのは戦略だけ
RESTとGraphQLの比較を通じて見えてきたのは、どちらが優れているかという単純な問題ではなく、どのような目的・状況・戦略に適しているかという視点の重要性です。
RESTはそのシンプルさ、広範なツールサポート、HTTPプロトコルとの高い親和性から、多くの場面でいまだに信頼できる選択肢です。特に、データ構造が単純で、標準的なCRUD操作を中心とするアプリケーションでは、RESTは安定かつ効果的なAPI設計を提供します。
一方でGraphQLは、複雑で動的なUIを持つマルチプラットフォーム対応アプリや、効率的なデータ取得が求められるモバイル環境などにおいて、その柔軟性と最適化能力を発揮します。クライアント主導の設計によって、フロントエンドとバックエンドの協調がより強力になります。
しかしGraphQLには、キャッシュ、セキュリティ、モニタリングといった運用面での課題も存在し、導入には技術的な成熟度と体制の整備が求められます。
結局のところ、API設計において大切なのは「これが正解だ」という唯一の選択ではありません。大事なのは、目的に応じて柔軟に選択し、時には組み合わせて使い分けるという戦略的な思考です。
技術はツールであり、答えではない。
正解を探すのではなく、自分たちにとっての「最適解」を戦略的に設計する。
それが、これからのAPI設計において本当に求められるスキルなのです。
さあ、あなたのプロジェクトにとって最もふさわしいAPI戦略は何でしょうか?
9. 参考資料・おすすめリソース
RESTやGraphQLの導入・学習・運用に役立つ公式ドキュメントや、実践的なツール、導入事例などを以下にまとめました。より深い理解や実装に向けてぜひ活用してください。